胚の評価

  • 胚の評価 – 体外受精は胚の質

    体外受精では、胚の質が良くないと、生まれてくる赤ちゃんの健康に影響しやすいのでしょうか? 胚の評価 今日は、多くの方が気になる「胚の質」についてのお話です。 「移植を受けた胚の評価が下級だと、たとえ妊娠できたとしても、健康ではない赤ちゃんが生まれるのでしょうか?」――今回は、こうした疑問についてのお話です。 まず「胚の評価」とは、胚が分裂する速度や胚の形を見て判断するものです。次の写真を見ていただくと、わかりやすいと思います。 いずれも3日培養胚です。左の胚は、分裂速度も形も対称的で、きれいに分裂しています。一方、右の胚は分裂速度が遅く、フラグメント(細胞の破片)もまばらに見られます。いわゆる poor quality(質の良くない)胚です。 このように、胚の質によって妊娠率にも差が出ます。実際、下級胚より上級胚を移植した場合のほうが、妊娠率は高くなる傾向があります。とはいえ、下級胚だからといって必ず妊娠に失敗するわけではありません。移植を受けたその日から落ち込んでしまう必要はないのです。 不妊治療という営みについて 妊娠には、科学だけでは説明しきれない「何か」があるのかもしれません。私たちが理解できる範囲を、超えている部分もあるように思います。 さて、本題に戻ります。「移植を受けた胚の評価が良くないと、たとえ妊娠できたとしても、健康ではない赤ちゃんが生まれるのか?」という疑問について、近年報告された研究をご紹介します。 この研究は、2008年から2012年にかけて単一胚移植を受けた40歳未満の女性を対象に行われた、後ろ向き研究です。good quality embryo(質の良い胚)を移植された1,193人と、poor quality embryo(質の良くない胚)を移植された348人を対象に、妊娠率、出生児の体重、早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、新生児合併症の有無などを比較しています。 下のTable IIを見ると、妊娠率を比較した場合、予想どおり good quality embryo を移植された群のほうが高い妊娠率を示しました(上級胚の妊娠率41.5% vs 下級胚の妊娠率19.2%)。 しかし、いったん妊娠が成立した場合には、上級胚で妊娠した群と下級胚で妊娠した群との間で、流産率、死産率、子宮外妊娠率に差はありませんでした。新生児生存率(妊娠が良好に維持され分娩に至った場合)を見ても、上級胚で妊娠した女性で77.8%、下級胚で妊娠した女性で80.6%と、両群間に差がないことがわかります。 さらに、下のTable IVにまとめられているように、妊娠関連合併症の危険因子となる女性の年齢、BMI、喫煙の有無、分娩歴、胎児の性別などの要因を補正したうえで比較しても、子宮内発育遅延、低出生体重児、早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、過剰な体重増加、妊娠糖尿病、絨毛膜炎、遺伝学的異常や奇形、母体の合併症、新生児の合併症のいずれにおいても、両群(上級胚で妊娠 vs 下級胚で妊娠)の間に差はありませんでした。 また、2013年の Fertility and Sterility にも、胚の質にともなう新生児合併症についての研究結果が抄録(abstract)として掲載されています。 上級胚を移植した場合と下級胚を移植した場合を比較すると、妊娠率そのものは上級胚のほうが高くなります。 しかし、いったん妊娠に至れば、上級胚と下級胚とで、流産率、死産率、子宮外妊娠率、妊娠関連合併症、新生児合併症に差はなかった、という結果が示されています。 「胚の等級が良くないから、赤ちゃんが健康でなかったらどうしよう……」と心配される方もいらっしゃると思います。 その点については、過度に心配されなくても大丈夫だといえそうです。 胚の等級は、あくまで胚の分裂速度や形からグレードを分類するためのものです。着床率とは関係がありますが、これから生まれてくる赤ちゃんの健康状態とは関係がない、というのは、ありがたい結果ですね。 たくさんの方が、幸せな妊娠と出産を迎えられますように、日々応援しています。